ゼミ活動資料  ケーススタディ日本文法 ケース10

複合動詞の成立条件

H9.7.28.
国語表現ゼミ 畑谷香水


前項動詞:前項要素となる動詞<例>「打つ」「押す」
後項動詞:後項要素となる動詞<例>「上げる」「倒す」
両項動詞:どちらにもなれる動詞<例>「切る」「取る」

== 傾向 ==
両項・後項動詞・・・対応関係を有する自動詞あるいは他動詞。
<例>「上がる」←→「上げる」
前項動詞・・・・・・上記以外の動詞。
(傾向としては、他動詞の方が顕著)

*動作・作用を表す動詞を「〜テイル」の形にしてみる。
主体の動作を表す動詞・・・動作動詞走る→走っている
押す→押している
突く→突いている
主体の変化を表す動詞・・・変化動詞死ぬ→死んでいる
倒れる→倒れている
切れる→切れている
 他動詞と対応する自動詞の多くは『変化動詞』であり、自動詞と対応する他動詞は主体の動作を表すと同時に客体の変化動詞をも表す『動作=変化動詞』である。

上記の傾向を言い換えると
両項・後項動詞・・・変化動詞<例>「上がる」「立つ」「付く」
動作=変化動詞<例>「上げる」「倒す」
前項動詞・・・・・・動作動詞<例>「打つ」「押す」「書く」
@彼は、不意に立ち上がった。
 「立つ」+「上がる」
 変化動詞 +変化動詞
A彼女は、もうすぐ原稿を書き上げる。
 「書く」 +「上げる」
 動作動詞 +動作=変化動詞

《複合動詞の結びつき》

B太郎が次郎を押し倒す。 → ? 太郎が次郎を倒し押す。
Cボールを蹴り上げる。 → ? ボールを上げ蹴る。

1.動きを動作の形態面と変化の内容面とに分析する結びつき
 A:動作動詞・・・・・動きの形態面
 B:(動作=)変化動詞・・動きの内容面

 BCにおいて
「押す」「蹴る」A:動作動詞・・・・・動きの形態面
「倒す」「上げる」B:(動作=)変化動詞・・動きの内容面
「押し倒す」「蹴り上げる」:A+B
**それぞれの単純動詞では表現しきれない部分を補い合う。

2.動詞として動きを継続的に表す結びつき

  『動作動詞+(動作=)変化動詞』
  動作の形態→ 変化の内容 ・・・時間的な前後関係に対応して継続的に表す。

 {参考}複合名詞
   「隠し縫い」・・・「隠す」+「縫う」
            変化動詞  動作動詞
   「添え書き」・・・「添える」+「書く」
             変化動詞   動作動詞

**一つの動きを動作形態と変化内容の面とに分析しても、次の場合により異なる。

3.動きをひとまとまりのものとして表す結びつき

 D品物を取り返す。→ 品物を取って返す。
 E強引に押し倒す。→ 強引に押して倒す。

複合動詞
両者は切り離し難く結びつき、ひとまとまりのものとして表現される。
〜テ〜スル
両者が一連のものでは合っても、別個の動きとして表現させる。
(複合動詞とは同義でない。)

4.前項と後項との主体が一致する結びつき

 F 囚人を生き埋めにする。 → ?囚人を生き埋める。
 G えびの躍り食い。    → ?えびを踊り食う。

*複合動詞において前項と後項の自他性は、ほとんど一致している。
[自動詞]+[自動詞]  <例>
[他動詞]+[他動詞]  <例>「書き付ける」「食べ尽くす」
 [自]+[他]・[他]+[自]という結びつきがないわけではない。
 <例>「届け出る」「つかみかかる」「寝返る」

 前項と後項の主体は同一である。
   FGは主体が一致しない。
 F「生き」は「埋める」対象を主体とした状態を表している。
 G「踊り」は「食う」対象を主体とした状態を表している。
**異なる主体の状態や動きを表すのは、複合名詞では可能であっても、ひとまとまりの動きを表現する複合動詞では難しいようである。

5.意味的に呼応する結びつき

 H水が地面にしみこむ。→?水が地面ににじみこむ。

 「こむ」・・・“あるものの内部への動き”を表す。
 「しみる」・・その主体の特徴として“ものの内部へ”という方向を持つ。
  **互いの特徴と呼応し“内部への動き”を一層強めている。
 「にじむ」・・その主体の方向が“ものの内部から表面へ”
  **これは「こむ」とは相反するため「にじみこむ」とは言えない。

 I子どもたちが歌い出す。
 J水を吐き出す。
 「出す」・・・・「出る」という客体の変化を表す動詞。
 「吐き出す」・・「吐く」の主体が「出す」と同一である。
 「歌い出す」・・「出す」は「出る」という変化の意味はない。
        「出す」は補助動詞的に機能し、「歌い始める」の意味になる。
**「吐く」も「出す」も主体が客体を外部へと移動させるという方向性を持つ。お互いに呼応して、複合動詞の構造を作り上げている。